2026/07/21 17:02

ずいぶんと長い間、輪行袋の有効活用について頭を悩ませてきた。2020年あたりからだろうか。


ただでさえ大きく重く邪魔な輪行袋なのに、電車に乗るときにしか使えないなんて、無駄な荷物に思えて仕方がなかった。輪行で使うならまだいい方で、実際はお守りとして念のために持ち運ぶことのほうが遥かに多い。それもお守りとして役に立った機会なんて年に1回もないのだ。まるで「降水確率10%なのにずっと傘を持ち歩いている」ような、そんな気分だった。


当時の僕はパスハンティングといったサイクリングを通して、自然のなかに身を置くことが多かった。マウンテンバイクを担いで山道を歩き回るなかで、ハイキング、特にUL(ウルトラライト)ハイキングに関する知識を身につけていった。


荷物の軽量化は、「1つの道具に複数の役割を持たせる」というアプローチが基本だ。たとえば、シックスムーンデザインズの「ゲイトウッドケープ」というシェルターは雨具を兼ねる。本来であれば「テント+雨具」だったところが「これ1つ」で済む。そうやって一石二鳥、一石三鳥な道具選びや運用をすることで軽量化していくのだ。


「いつしか輪行袋でも、ULハイキングと同じアプローチを取り入れられないだろうか?」と考えるようになった。


既製品の流用に始まり、それに満足できず自分で作り始めた。unBIKE(アンバイク)を立ち上げるまでは自分用に寝袋やバッグなんかを作ってきたけれど、思い返すと僕のハンドメイドの歴史は、常に「輪行袋との戦い」だったかもしれない。それだけ脳に汗をかいて、様々な工夫を凝らしながら手を動かしてきた。


今回は、輪行袋の「無駄な荷物感」や有効活用方法に悩んでいるサイクリストに向けて、試行錯誤のなかで生まれたアイデアを共有しようと思う。自作品をベースにしたアイデアもあるので再現は難しいかもしれないけれど、何か新しいヒントになるかもしれない。

アイデア1:グランドシート化

輪行袋のもっともポピュラーな使い道は、グランドシート(テントの下に敷く保護・防水シート)だと思う。


地面に敷くだけでお手軽なので、特別な輪行袋を作る必要もなく誰でも取り入れやすい。泥汚れが気になるかもしれないが、輪行袋を裏返してから地面に敷けば、表側は清潔に保たれる。


ただし、たいていの輪行袋は「防水」ではなく「撥水」なので、本格的な雨には無力だ。あと特に縦型や折りたたみ自転車用の輪行袋では、テントのフロアに対してサイズが不足する。輪行袋の脇を開いてフルオープンできるようにしてサイズを拡張する手もあるが、グランドシートのためにそこまでするのは割に合わない気がした。同じく脇を開いてタープとして使うアイデアもあるが、サイズが中途半端でやはり割に合わない。


そもそも「グランドシート自体が本当に必須なのか?」という問題もある。設置するときは風でバタつき、撤収するときは泥を落としたりと手間が増える。僕はそれが嫌で使わなくなってしまった。


一方で、フロアレステントやタープ泊との相性は良い。また、実際に試したことはないが、輪行袋に落ち葉を詰め込めば「ふかふかのマット」になるかもしれない。うまく機能すればスリーピングマットも軽量化できるはずだ。


もしグランドシートとして使いやすくするのであれば、「グランドシートとして販売されている製品を輪行袋にする」という逆転の発想や、タープやツェルトを輪行袋にする発想もできる。


けれど、僕としてはそこまでする必要性を感じなかった。安くて軽い農ポリやタイベックシートを使えば十分だからだ。輪行袋のグランドシート化はお手軽だが、突き詰めるだけの情熱は湧かなかった。

アイデア2:シュラフカバー化

マウンテンバイクに乗っていた頃、もっとも好んでいたのが「シュラフカバー化」だった。
シュラフカバーとは寝袋に被せる防水カバーのことで、結露や水分から寝袋を守り、保温性を高めてくれる。夏場ならシュラフカバー単体で眠ることも可能だ。

自作した「輪行袋 兼 シュラフカバー」は、広さ・軽さ・内部結露の少なさなど、専用品より優れている点があった。そのため輪行の予定がなくても積極的に持ち出す理由があり、登山でツエルト代わりに携行していたこともある。

当時、これがアウトドアサイクリストの1つの最適解だと信じていた。もし今も当時のスタイルを続けていたら、unBIKEから最初に生まれた製品はシュラフカバー化できる輪行袋だったかもしれない。

ただ、輪行袋をシュラフカバー化するにあたっては大きな課題が2つあった。

・サイズ不足:全身を覆うには輪行袋のサイズが小さすぎる。
・素材選び:撥水生地では防水性が足りず、かといって普通の防水生地では蒸れて内部結露が発生し、寝袋を濡らしてしまう。

サイズ問題は試行錯誤の末、「ホイールバッグを併用する」ことで解決した。縦型の被せるタイプ輪行袋にホイールバッグを繋げることで、足元まで覆えるサイズを確保。車体にホイールを固定する面倒な作業も減り、輪行の作業性も向上した。

素材問題は「防水生地と撥水生地の異素材ミックス」で解決した。地面に接する側は防水生地で水分を防ぎ、上部は撥水生地にして内部の蒸れを放出する。本降りの雨のなか20時間ほどツエルト内にこもっていたときも寝袋が濡れることはなく、氷点下の環境でも内部結露は起きなかった。

輪行袋とホイールバッグの組み合わせは余裕があるため、スリーピングマットごとすっぽり格納できる。布団に潜り込むように顔まで覆うことができ、氷点下の夜には本当に助けられた。吐く息がナチュラルな暖房器具となり、快適に過ごせたのだ。

エクストリームなサイクリストなら、東屋にこのシュラフカバー化した輪行袋を敷くだけで旅ができるかもしれない。

アイデア3:焚き火よけ&ピクニックシート

マウンテンバイクからブロンプトンに乗り換えて、最初に作った輪行袋は「帆布(キャンバス)製」だった。クラシックなブロンプトンには、天然素材を合わせたい気分だったからだ。


街乗り(シティユース)に特化するつもりで乗り換えたことで、スペック上の数値には表れない「情緒的な要素」を取り入れる余裕ができた。


一見重くて不利に思える帆布の輪行袋だが、独自のメリットがあった。地面に敷いても風で飛んでいかないため、ピクニックシートとして非常に使い勝手が良い。風でシートがめくれて水筒がひっくり返ることもない。川沿いで輪行袋を広げて本を読む——そんなサイクリングにうってつけだった。


もう一つは、化学繊維と違って「熱に強い」こと。一般的なナイロン輪行袋に焚き火の火の粉が飛ぶと一瞬で溶けて穴があくが、帆布ならひざ掛けにして火の粉から服を守る使い方もできる。登山というより、キャンプシーンで活きる輪行袋だった。

アイデア4:ポンチョ&レインスカート化

「ポンチョになる輪行袋」はすでに市場にも存在するし、僕自身も以前からアイデアとしては持っていた。しかし、ブロンプトンに乗り換えるまでは試そうとさえしなかった。


なぜなら、当時の僕のスタイル(自転車を担いで山道を歩く)では、体にフィットしたレインスーツのほうが圧倒的に合理的で安全だったからだ。さらに防寒着としても使えるレインジャケットがあるのに、輪行袋をポンチョ化して雨具が2つになっても意味がないと感じていた。


ところが、アウトドアからシティへ気持ちが傾き、ブロンプトンに乗り換えたことで事情が一転する。パスハンティングを考慮しなくなったことで、ガバッと羽織れて蒸れにくいポンチョの魅力に惹かれていく。僕の自転車暮らしにはポンチョこそ、一番向いていると思えるようになったのだ。


そこから本腰を入れて「輪行袋のポンチョ化」に取り組み始めた。


しかし、開発早々に最大の壁にぶつかる。「ブロンプトンの輪行袋は小さすぎる」という問題だ。折りたたんだ車体が小さいため、輪行袋も小さくなる。かぶって直立するだけならまだしも、自転車のハンドルへ手を伸ばすと裾がずり上がり、胸から上しか防げなくなってしまう。


ホイールバッグを追加したところで輪行にも街中でも使い所がない。輪行袋1つで解決しなければ意味がない。


悩み抜いた末にヒントをくれたのが、子どものころに使っていた「白と水色の給食袋」だった。給食袋の口にはスリットが入っていて、物の出し入れがしやすくなっている。そこから着想を得て、「輪行袋の下部にスリットを入れる」というデザインを思いついた。これにより、ポンチョとしての可動域が一気に広がったのだ。しかもそのスリットは、自転車を収納する際の出し入れのしやすさにもつながっている。


輪行袋をポンチョ化するための重量増はゼロだった。


さらに棚からぼた餅だったのは、「レインスカート」にもなるという発見だ。ふと思い立って履いてみたところ、見事に下半身を守るレインスカートとして機能することがわかった。


夏はポンチョとして、防寒ジャケットを羽織る春秋冬はレインスカートとして。年中無休で無駄なく使える「お守り以上の道具」が完成した。

おわりに

ここまで輪行袋の有効活用にこだわるのは、もちろん軽量化などの打算的な面もある。けれど一番は、「手に入れた道具を、隅から隅まで使い切りたいから」だ。


正直なところ、僕自身普段はそこまで頻繁に輪行をするわけではない。けれど輪行したいときもあるし、万が一のトラブルに備えて輪行袋は持ち歩いていたい。


ただ、そんな「ごくわずかな機会」のためだけに輪行袋を所有し、ただの重りとして持ち運ぶのは自分のミニマリズムに反する。


自分のライフスタイルにとって、本当に最適な輪行袋とは何か。 単なる「万が一の備え」で終わらせず、日々の暮らしや旅の道具としてどう活かすか。


そんな問いと向き合い、脳に汗をかきながら試行錯誤を続けた末に生まれたのが、販売予定のunBIKE リンチョだ。


もし今、輪行袋の「無駄な荷物感」にモヤモヤしているなら、アイデア1つで優れた道具へと生まれ変わるかも知れない。